LESSON#055
もっと知りたいアメリカワインの基礎知識
世界のワイン産業で近年重要な位置を占めているのが新世界のワインですね。ワイン造りの歴史が古いフランス、イタリア、スペイン、ドイツなどを「旧世界」と呼ぶのに対し、歴史が新しい生産国は「新世界」と呼ばれています。ここでは、新世界ワインの代表格であるアメリカのワインについて解説します。
カリフォルニアワインの歴史
17世紀、新大陸のアメリカで栽培されていたブドウは生食用でした。そこでヨーロッパからの入植者たちがヴィティス・ヴィニフェラ※の木を持ち込み、アメリカ品種の台木に接ぎ木することで、ワイン用ブドウが広がったと言われています。しかし19世紀後期のフィロセキア被害や1920年に始まった禁酒法により、ワイン醸造はすたれてしまったのです。禁酒法廃止後は、安価なブレンドワインが多く出回るようになってしまいました。
アメリカワイン復活の道を開いたのは、カリフォルニア大学デービス校です。地域に合うブドウ品種の研究や、最新の醸造技術の教育を進めたおかげで、意欲あるワイン生産者が増え、ワインの品質もグンと向上しました。そしてそれまで無名だったカリフォルニアワインが、ワイン史を塗り替えた、と言われているのが1976年の「パリスの審判」。フランスの一流ワインを超えた実力が認められたことで、世界中にその存在を知られることとなったのです。
★★アメリカがスターに躍り出た★★
パリスの審判
1976年、パリでアメリカ独立200年を祝うイベントが開催されました。発案者は、世界初のワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」を創始したイギリス人ワイン評論家スティーヴン・スパリュ。赤はカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨン系、白はシャルドネの各6銘柄、同じ品種のフランスワイン各4銘柄を用意し、フランスワイン界を代表する審査員9名が、ブラインド・テイスティング。その結果は、赤も白も、当時無名のカリフォルニアワインがフランスの超一流ワインの点数を上回ったのでした。
この模様は『TIME』誌をはじめとするメディアが大きく書き立て、「ワインはフランス」というそれまでの常識が崩れ去ったのでした。この事件は、羊飼いパリスが女神たちの美を判定したギリシャ神話「パリスの審判」をもじって、後年こう呼ばれるようになったのです。
ワインの表示
アメリカにワイン法が制定されたのは、1978年とまだ最近のことです。ここには、原産地・ブドウ品種、収穫年度などを表示する規定が記されていますが、EU各国のような栽培方法や醸造方法を管理する保護原産地呼称(PDO)は規定されていません。アペレーション(原産地証明)制度や合衆国政府認定ブドウ栽培地域(AVA※)制度など少し複雑ですが、ほぼ左記のように理解することができます。
※AVA:政府が認めたブドウ栽培地域で、現在アメリカ全土で139カ所以ある(カリフォルニアワイン協会日本事務所「カリフォルニアワインの概略2019」より抜粋)
原産地 の表示 |
州(State) カリフォルニア、ワシントンなど |
右記のいずれか一つをラベルに表示できる。 「州」と「群」を名乗る場合、当該地域内で栽培されたブドウを75%以上、「AVA」の場合は85%以上、「畑」を名乗る場合は95%以上使用していることが必要 ※カリフォルニア州では100% |
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郡(County) ナパ、モントレーなど |
||
AVA セントラル・コースト、 ナパ・ヴァレーなど |
||
畑(Vineyard) スワンソン、○○○など |
||
ブドウ品種 の表示 |
当該ブドウ品種を75%以上使うことが必要 | |
収穫年 の表示 |
当該年に収穫されたブドウを95%以上使うことが必要 ※州によっては条件が異なる |
主要なワイン産地
「アメリカのブルゴーニュ」として、ピノ・ノワールの銘醸地としての地位を確立しています。穏やかな海洋性気候がピノ・ノワールのようなブドウ品種に理想的なのです。
主なぶどうの産地
ウィラメット・ヴァレー、サザン・オレゴン、スネークリヴァー・ヴァレーの3つあり、とりわけ、ウィラメット・ヴァレーには大小合わせて200を超えるワイナリーが集中している
フランスボルドーとほぼ同じ緯度で、年間平均日照時間は1日17時間と長い。昼夜の寒暖差が激しく、年間雨量約200ミリと乾燥した気候のため、酸味が穏やかで濃縮したブドウがよく育ちます。
主なぶどうの産地
州の南に隣接するオレゴン州との境界線から内陸中央部へ広がるコロンビア・ヴァレー流域が中心で、内陸部のヤキマ・ヴァレーAVA、ワラワラ・ヴァレーAVAが重要なワイン産地として知られる
アメリカワインの約90%を造っている、すごいですね。早くからヨーロッパの栽培・醸造手法を採り入れ、高品質なワインを続々と生みだしています。大学では最先端の研究が盛んに行われるなど、世界を牽引する勢いの州です。
主なぶどうの産地
ノースコースト、セントラルコースト、セントラルヴァレー、シエラネヴァダ、サウスコーストの5つ。中でも、北部の沿岸地帯ノースコースト地域のナパ郡、ソノマ郡、セントラルコースト地域のモントレー郡、セントラルヴァレー地域のローダイAVAなどが、高級ワインの生産地としての評価が高い
1976年の「ファーム・ワイナリー法」で、小規模ブドウ生産者でもワインの製造・販売を可能にしたのがきっかけで、ワイナリーが増えています。アメリカのワインブーム火付け役になりそうですね。
主なぶどうの産地
フィンガー・レイクス、ロングアイランド、ハドソン川流域、エリー湖周辺、ナイアガラ・エスカープメントの5つあり、その中に9つのAVAが存在する
時代はサステナブル(持続可能)へ
SDGs(持続可能な開発目標)いう言葉を最近よく耳にしますね。ワインの世界でも「サステナブル」が注目を集めています。この考え方は、ブドウ栽培やワイン醸造の過程だけでなく、自然環境の生態系やワイナリーで働く人や地域住民への配慮など、実に多くの要素が含まれているのです。アメリカでも急ピッチに進んでいる「サステナブルなワインづくり」で注目のキーワードをいくつかご紹介しましょう。
★★サステナブルなワインづくり★★
キーワード
農法:カバークロップ
ブドウ樹が植えられている畝と畝の間に下草を生やす手法。土壌改良に役立ち、害虫の天敵となるクモ、ハチ、テントウ虫などの益虫の生息数を増やすほか、表土の流出を防ぐ効果もある。
廃棄物の再利用:コンポスト
ワイン醸造時に発生するブドウの梗、果皮、種子などの搾りかすを堆肥として活用。肥沃な土壌を作るばかりか、廃棄物処理に関わる二酸化炭素の排出量が削減される。
代替エネルギー:自然エネルギー
晴れの日が多いカリフォルニアでは、ソーラー・パネルは理想的な発電エネルギー。二酸化炭素の排出削減にも威力を発揮する。風力、地力など自然エネルギーの活用も増えている。
社会への貢献:地域と生産者
ブドウ栽培農家やワイン生産者は従業員の福祉の充実や労働環境の保護に力を入れている。もちろんワインについて学ぶ研究も。
アメリカに限らず、世界的にこうした取り組みを実践するワイナリーが増えています。ワインの世界にもサステナブルな時代が、もうそこまで来ているのかもしれませんね。
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